第7回・木村恒久さん


ここでは月に一度、スエイさんの知人友人の方に、スエイさんとの付き合い、関係、思い出などを語っていただきます。バックナンバーは一番下から飛べるようになってます。御覧ください。


第7回 木村恒久さん

「木村恒久・ハイライト問題」っていうのが
あって(笑)

今回は木村さんとスエイさんの出会いから、その他諸々のお話をお聞きしたいと思ってるんですが。

木村 珍談・奇談の類ね。スエイ君とはマトモな話なんかないよ(笑)。

そもそもスエイさんが木村さんに、モンタージュをお願いしようと思ったきっかけはなんだったんですか?

スエイ 僕は木村さんのファンだったから。木村さんのファンになったのは『デザイン批評』っていう雑誌だったんです。僕が二十か二十一くらいの頃かな? 『デザイン批評』を愛読してたんですけど、その中に「木村恒久・ハイライト問題」っていうのがあって(笑)。その展開が凄い面白かったの。東京オリンピックのハードル競技の写真を参考にして、木村さんがタバコのハイライトのデザイン(国体用)をされたんですけど、そのデザインで新聞社が記録したオリンピックのハードル競技のシーンを参考にしたら、それにイチャモンがついた。それに対して、木村さんがモンタージュと文章で反論してるんだけども、それがものすごく面白かったんです。

木村 人生のハイライトを浴びたトピック事件でした(笑)。新聞社が撮影した東京オリンピックの競技写真を参考にしたけど、国が主催した東京オリンピックは国民の税金でやっているわけで、記録したスポーツ競技写真の権利は納税者の共有物で、一介の新聞社の私有物じゃなく、コモンズに権利があるわけですね。コモンズの公通財産を使うのは主権行使ですよ(笑)。

スエイ ただ、あんまりうまい絵じゃなかったですよね、あのハイライトのイラストは。

一同 爆笑

木村 個の造形に興味ないからですね。

 

アイディアの
「ひらめき」ないんです

木村さんは絵を描くというより、デザインとかモンタージュのほうが主な作品。

木村 そうね。個の造形より、関係性の意味がテーマです。

スエイ で、僕が『写真時代』のときに木村さんにモンタージュをお願いしに行ったんですよ。そしたらね、「モンタージュというのがいかに大変か」ってことを延々聞かされて……。

木村 断ろうとしたんだよ、最初は(笑)。『写真時代』は月刊誌だったけど、月刊誌でモンタージュを作るというのは簡単な話じゃないわけ。時間が足りないとアカンわけで。

それはロケをしたり、素材を集めたりということですか?

木村 問題はコンセプトやアイディアのコンテンツですよ。モンタージュっていうのは、コンセプトが出て作り始めるものですから。月刊ペースでそれをやるのはしんどいなぁと思ったんですね。今みたいにパソコンで画像処理ができる時代じゃなく、全部手造りでパワーアップだから。

スエイ 要するにちゃんと「体制を組まないと無理だ」っていう話だったんですよね。

アイディアはそんなに頻繁にはひらめかない?

木村 天才じゃなく、きわめつけの凡人で、アイディアの「ひらめき」ないんです(笑)。凡人に必要なのはコンテンツのための調査なんですよ。徹底して調査が必要で時間がかかって、鈍で(笑)。

調査というと、具体的には?

木村 ロケハンしたり写真を徹底的に調べてレンタルしたり。撮りなおしでパワーアップ・バージョンする複雑な作業を積み重ねていくわけだから。しかも一点じゃないからね。で、モンタージュはいくつもの写真を組み合わせるでしょ。それぞれの写真は、写真自体の質も違うし、画質もレンズも違うから、それのコンバインズ(組み合わせ)を手造りでやるというのは技術的に面倒で。で、複数の写真をワンカットのシーンにコンクリートしてワンショットのようなイメージを構築するわけでしょ。だから、観た人の中にはワンショットで撮影した「一枚の写真だ」と思ってる人もいます。「何が大変なの? ワンショットで撮ったんでしょ?」って。

一同 爆笑

木村 モンタージュには、標準レンズや広角レンズ、望遠や接写レンズから顕微鏡写真までね、異なるレンズで撮った視野が折り重なっているから、ワンショットのレンズで撮れるわけないんだけどね。モンタージュは異なるレンズの視野を重ねた多重露光のパッチワークで、高度なイリュージョンを繰み出すのが狙いですからね。一過性のパロディの類では読者がすぐ飽きちゃう。『写真時代』は月刊誌ベースで展開しているわけだから、知覚に刺激を与えなくちゃいけなかったから。

スエイ だから、作っていく中で結局ヤメになっちゃう作品も多いんですよ(笑)。

木村 視覚効果が定番メニューなら、完成しても掲載をヤメた例も多い。

 

もう僕らは木村さんの家来でしたよ、
家来(笑)

木村さんのモンタージュで、スエイさんが印象に残ってるものはありますか?

スエイ ヒットラーとかね(笑)。

木村 日本に出稼ぎに来ている一人暮らしのヒットラーね。

一同 爆笑

一人暮らしのヒットラー(笑)。

木村 出稼ぎ外人として新大久保のボロアパートに住んでいるヒットラーですよ(笑)。ナチの旗を飾ってるボロアパートの部屋で一人暮らしで、ロボットのプラモデルを作ったりとか。で、ヒットラーの仕事は池袋のキャバレーのガードマン。客が来たら、入口で「ハイル・ヒットラー!」とか言ってね(笑)。で、仕事にアブれた日はパチンコ三昧。浅草のストリップ小屋の常連ですよ(笑)。それでナチスの軍服の正装で、毎日桶持って風呂屋通いで(笑)。まぁ、タラコが大好物だからアメ横で値切って(笑)。

スエイ あれはシチュエーションのカット数が多かったから、モンタージュが大変でしたね(笑)。

そういうモンタージュのアイディアはスエイさんからは出ないんですか?

スエイ それは出ません。

木村 他人のアイディアを自分の手法へ翻訳するのには時間がかかるからね。新しいスキルを開発しなきゃいけないし、まず、それに時間がかかっちゃう。そうするとですね、月刊ペースの締め切りに間に合わない。

スエイ だからもう僕らは木村さんの家来でしたよ、家来(笑)。言われるがままに作業をしていた。「何を集めてこい」と言われるとすぐ出動するわけです。朝5時からですよ。朝5時に木村さんから指令が来る(笑)。

 

芸術的苦悩をちらつかせて(笑)。
「うーん……」って

今はコンピュータがあるから、すぐにコラージュとかが出来てしまいますけど、当時はそうじゃなかった。

木村 うん。アナログの手造りだと時間と経費がかかるわけです。

スエイ 原価計算すると合わないんだけど、某印刷所の社長さんが木村さんの凄いファンでね。ほとんど無料奉仕で社員に内緒で夜中にコッソリやってくれていたんです。社員に知れると「社長、何やってんですか」って突き上げがくるから。だから、実現できたんです(笑)。

木村 芸術的苦悩をちらつかせて(笑)。「うーん…」って悩んで、ゲイジュツの苦悩打開に白装束で四国巡礼ご一緒とか(笑)。ともかく大変お世話になり感謝です。当時は印刷工程が極めて複雑な作業でしたから。

木村さんは今、コンピュータをお使いになりますか?

木村 使わない(キッパリ)。コンピューターはデジタル・スキルのオペレーションに過ぎない。

スキルより大変……大変で面白いのはやっぱりアイディアを出すということですか?

木村 コンテンツだね。コンテンツが基本。コンテンツがなかったらやる必要なんてないの。メディア芸術はコンテンツを重要視し、コンセプトを「バイブル」と呼んでいます。バイブル不在ではモンタージュにならない。

 

自己のルールのビジネス・モデルを
明記しないとアカンわけで

コンテンツが大事。

木村 2000年以降は、コンテンツの略奪とか海賊版が多くなったでしょ。「コンテンツ促進法」とか「知的財産基本法」などの、「バイブル」のコンテンツに関する法律が多く繰み出されていますね。モンタージュは「バイブル」を座標系にした「暗黙知」の知覚構造が基本です。「暗黙知」は複雑なコミュニケーションの手続きなどなしに、パッと見た瞬間にすべてを知覚させるわけですよ。で、何を知覚させるのかというと「バイブル」なわけで、スキルじゃないんです。

スエイ 今のホリエモンとフジテレビについてはどう思いますか?

木村 アレは資本主義のルール。だから、ホリエモンがやろうとしたことは善悪じゃないよね。

スエイ ですよね。今でも「あなたはどっちの味方?」っていうのが多いんですよね(苦笑)。そういう問題じゃないのに。

木村 「ホリエモンにはモラルがない」なんて言う人もいるけど、資本の競争原理だから、モラルというより一つのビジネス・モデルの提示ですよあれは。ビジネス・モデルとしての通常のルールに従ってホリエモンはやっとるわけだから。だったら、フジテレビは「我々は企業買収をしません」と会社創立の定款に自己のルールのビジネス・モデルを明記しないとアカンわけで。そうすれば、買収が起こったときに「我々のビジネス・モデルとオタクのルールとは違う」と主張出来るわけですから。

 

最初からBSが付いてるんだから
観ないわけにはいかないんだ、と(笑)

スエイ 木村さんはNHKのアレ払ってますか?

木村 アレ?

スエイ 受信料。

木村 払ってますよ。

スエイ アレ、払いたくなくなったんですけど、銀行引き落としにしちゃってるから(笑)。それをヤメればいいんだろうけど……。

木村 最新のテレビを買うとね、デジタル・チューナーが内臓されているから自動的にBSが映るわけね。現状のアナログ放送で充分なのに、最初からBSが付いているんだから観ないわけにはいかないんだ、と(笑)。新聞の折り込み広告など、観る必要がなくても勝手に入れてくる。BSを観たくなくても受信料が自動的に請求されるというのは、お年寄りが折り込み広告を観ずに捨てても、料金を徴集されるのと同じでね。

一同 爆笑

 

で、アラーキーの写真と
赤瀬川原平さんのテキストと
俺のモンタージュが並んでたりするわけね

前後しますが、木村さんから見て当時、『写真時代』はどう映っていましたか?

木村 ワケわからんよね(笑)。でも、スエイ君が面白いのはコラムの必然性を知ってるところでそこが面白かった。雑誌はアナーキーなコラムの寄せ接ぎのパッチワークが本来の姿で、コラムは理論的体系を否定する。雑誌は結局コラムを読んでるわけね。で、スエイ式コラムっていうのはね、論理の脈絡なんて全否定するわけだよ。

ページによってブチブチ切れてる。

木村 ブチブチに切れてる。で、アラーキーの写真と赤瀬川原平さんのテキストと俺のモンタージュが並んでたりするわけね。雑誌っていうのは社会を映すコラムのつまみ食いのアナーキーさが王道でね。雑誌が難しいのは、コラムを統合するイデオロギーの背景を見せたら失敗するということ。

スエイ なるほどね。

木村 無関係なコラムを並べると、今まで思いつかなかったような、新たな事柄と事柄の関係性が発生して。で、それが雑誌のギア・エンジンの牽引力でしょう。アラーキーとキムラカメラと赤瀬川テキストと南伸坊君が、スエイ君によって関係づけられて、で、そのスエイ式シナジー効果のパワーが『写真時代』独特の性格を繰み出したわけで。

そう考えるとコラムもコラージュも似てるような……。

木村 コラージュの語源はコラムだから。だから、スエイ君がやってたことは独自のモンタージュ論だと思う。雑誌はコラージュのオンパレードで。ここにある写真(A)は江戸の戯絵師、国芳のヒトのパッチワークの「寄せ絵」で作った人面相。こっちは(B)国芳をヒントにして制作した舞踏集団「白虎社」のモンタージュ(ポスター)。『写真時代』は好奇心丸出しの多汗症ワキガ連中が集まって、ワイワイガヤガヤで時代の人面相の「顔」を作っていたわけでね。


(A)国芳のヒトのパッチワークの
「寄せ絵」で作った人面相


(B)国芳をヒントにして制作した
舞踏集団「白虎社」のモンタージュ

 

雑誌っていうのは
プラットホームの論理だね

スエイさんも編集術で「雑誌はコラム」と言ってますね。

スエイ うん。それは木村さんから教えを乞うて。

木村 だから、雑誌っていうのはプラットホームの論理だね。プラットホームってのは何の関係もない連中が偶然に出逢って、ある目的に向かって列車に乗り込む。そこから新しい関係が発生しますよ。いちゃもんつけたり、酔っ払いにカラまれたり。で、日頃プラットホームで見慣れてる女に惚れたりとか(笑)。そうやって全然関係のない連中が、新しい関係性を作っていくのが雑誌だし、それがクリエーションということだから。ホリエモンが言ってるのは公共性と称するテレビ・メディアの既得権益を打破して、新しい関係性のプラットホームの論理を作ろうとしているわけだよね、ネットとかで。既存のテレビのビジネス・モデルからは、新たな知識集約型のコンテンツは生まれない。

メディアの特質。

木村 あと、アルゴリズムの論理も。アルゴリズムっていうのは計算幾何学の論理で、結果を保証する手続きということです。だから、いかにコラムをパッチワークしても、結果を保証するアルゴリズムの手続きがなければダメ。スエイ君はその法則を無意識に使っていた。

そうなんですか?

スエイ いや、僕はさっき木村さんがおっしゃったように無意識に(笑)。

木村 体質だよ、スエイ君の体質。スエイ君の体質は、アルゴリズムを本能的に嗅ぎわける。

 

あれを面白いと言う
木村さんが凄いと思った(笑)

木村さんとスエイさんは今でもちょくちょくお会いされてるんですか?

スエイ うん、木村さんから映画の話を聞いたり。木村さんから映画の話を聞くと、観に行きたくなっちゃうんですよ(笑)。で、前にね、木村さんが面白いって言うんで「恋はハッケヨイ!」っていうイギリス映画を観に行ったんだけどね。イギリスの女相撲の話なんだけど、木村さんから言われなかったら、あんな映画とてもじゃないけど観に行きませんよ(笑)。

木村 面白かっただろ?

スエイ ……いやぁ(苦笑)。

一同 爆笑

スエイ あれを面白いと言う木村さんが凄いと思った(笑)。

木村 イギリス中産階級のデブ女が集まってね、縁日で香具師が興行する女相撲、あれを真似た土俵部屋のサロンを作るというバカ話です(爆笑)。

スエイ よくあんな映画を作ったなぁと思いましたよ。映画を作るのってお金も必要だし人もたくさん関わるわけだから、やっぱりモチベーションが必要じゃないですか。でも、「恋はハッケヨイ!」はどういうモチベーションで作ったのかなぁと思って(笑)。

木村 エキゾシズムでしょ、インセンティブは。イギリスではデブがエキゾシズム(笑)。デブのエキゾシズムのストロング・デスマッチの女相撲が、それまで考えられなかった思考と思考関係性を創りだすというテーマでしょ。土俵ぎわの桟敷でね、贔気節の旦那衆気取りで一杯やりながら、チョンマゲのイギリス女の相撲のデスマッチを観るのは最高。

一同 爆笑

木村 アメリカなんかデブのほうが圧倒的に多いわけだよ。だから、肥満は普通のヒトで。

だったら、デブの恋愛のほうが普遍的。

木村 デブさんは、未来のユートピアのイメージというのはハリボテ風船なんだといっている(笑)。だから、コラムの面白さというのもデブとヤセが出逢うプラットホームだということ。多くの場合、ヘップバーンのようなヤセはヤセで統一するわけで。で、そこからは新たな関係性は生まれませんね。イギリスのデブさんの女相撲で目が慣れると、普通の映画はコンピューターで縦長に変形させて、無理にヤセにしているように見えるよね(笑)。

一同 爆笑

木村 スエイ将軍の召集号令で、俺やアラーキーや赤瀬川君、南伸坊君の微兵がプラットホームに集合して列車に乗り込み、スエイ閣下が発車する列車を指して「出発進行」って指令して微兵列車を見送るわけ。で、乗り合わせた微兵どもが、車内でゴソゴソやっていると到着する。ナント見送ったはずのスエイ将軍が次の駅でニコニコで出迎え「コンテンツ出来ましたか?」で、『写真時代』仕上がり(笑)。


スエイ一家インタビュー バックナンバー
第6回 滝本淳助さん
第5回 田中健二郎さん
第4回 ポーカー岩間さん
第3回 渡辺和博さん
第2回 須田栄司さん
第1回 バッカスのママ

 

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