第3回・渡辺和博さん


第3回 渡辺和博さん

伝説の漫画誌『ガロ』編集長を経て、フリーランスのイラストレーターとして活躍中の渡辺和博さん。鋭い洞察力と、エッセイの定評は御存じの通りと思いますが、スエイさんとは30年来の友人とのこと。今回は知り合った頃の思い出から、渡辺さんの最新刊「キン・コン・ガン!」のお話をうかがいました。


画廊のオープニングとかで挨拶するときにさ、
右側の後ろのほうから
「異議ナシ」って言う人が必ずいてね

まず、渡辺さんとスエイさんとの御関係からお聞きしたいのですが。

渡辺 関係? 色んな関係がある。

最初に出会われたのはいつ頃ですか?

渡辺 最初は仕事でね。25年くらい前。その頃はマックとかのコンピューターがなかったから、僕は手で原稿書いてたんだけど、字が下手だったの。スエイさんはそれを解読するのがうまかった。最初は『ウィークエンドスーパー』だったかな?

25年くらい前に、もうすでにイラストと文章の仕事をされてたんですね。『ガロ』の頃からですか?

渡辺 そう。『ガロ』の頃から。

渡辺さんは広島のご出身とうかがってますが。

渡辺 そうです。あなたも広島? 僕はさ、そういうイラストとか業界に入る学校に入るために来たんだよ。

スエイ 長髪?

渡辺 もちろん長髪ですよ。全員長髪。南伸坊さんも長髪。

スエイさんはその頃は長髪じゃなかった?

スエイ ……ちょっと長髪。

渡辺 でも、スエイさんはさ、僕が会ったときは相当社会人に見えたよね。僕らが30歳になるくらいまでアングラな人って世の中に結構いたんだよ。なんか、ヒゲとサングラスとかでさ。で、画廊のオープニングとかで挨拶するときにさ、右側の後ろのほうから「異議ナシ」って言う人が必ずいてね。知らないだろ?

知らないですね(笑)。なんですか、その「異議ナシ」というのは。

渡辺 アカ(左翼)の思想的なアレがあるんだと思うけど、なんでもかんでも「異議ナシ!」だったの。

スエイ アレ、みんな言ってたよね(笑)。映画観ても「異議ナシ」って。

渡辺 いつ頃、「異義ナシ」は絶滅したんだろうね。1970年代後半? 自動車ライターとかの専門業界は割と遅れてて、85年頃までは「異義ナシ」って言ってたけど。

対して「異義がある」場合はナンというんですか? 「異義アリ」?

渡辺 いや「ナンセンス」。だから、当時は「異義ナシ」か「ナンセンス」しかなかった。僕も「異義ナシ」を師匠に付いてお稽古したことある。デジタル音源にするといいよねI-podに入れられるように。(笑)。

 

やっぱり、偉い人っていうのはパワーだよ。
力で動くの

前後しますけど、スエイさんが「相当社会人に見えた」のは何故ですか?

渡辺 大人ですもん。

スエイ 『ガロ』はね、なんて言えばいいんだろ……非社会(笑)。

渡辺 そうそう、非社会(笑)。アングラ。ハズれてる。やっぱりさ、スエイさんの場合は岡山で苦労してるから。岡山で「これからは工業化社会だ」っていうのをさ、もう経済成長が終わってるようなときに思ったわけじゃん。

一同 爆笑

渡辺 そこが大事ですよ(笑)。これから情報化社会が始まろうとしてた時期に。だからね、物凄い最先端のことをやってる人が偉いわけじゃないんだよね。ズレてて大丈夫なんですよ。ズレてて大丈夫なんだけど、パワーがあるかどうか。やっぱり、偉い人っていうのはパワーだよ。力で動くの。『ガロ』にいた頃に、若い奴が色んな原稿持ってくるのよ。アレ見てて思ったけどさ、99パーセントやっぱりダメな人。パワーがない。そういう人は、ほとんど隠蔽されたまま終わるんですよ(笑)。1パーセントですよ、ちゃんとなるのは。例えば、花輪和一とか蛭子さんとかは1パーセントだけど、初めからもう突出してたもんね。

スエイ 原稿を売り込みに来る人には社会性ない人もいるでしょ?

渡辺 社会性ないよ。だって、「靴の紐がない」とかだもん(笑)。だから、原稿のことよりも「毎日風呂入ったほうがいい」とかさ、そんな話しかしなかったよ。それだったら、岡山から電車に乗って水島の工場で働いた人のほうが偉いんですよ。

一同 爆笑

 

「僕もそういう会社に入りたいな」
って思ってたよ

あの頃の『ガロ』に、荒木経惟さんのモデルでスエイさんが出てるのを見たことがあって。女の人とカラんでる写真で。

スエイ 会社のOさん(女性)とカラんだやつだ。

渡辺 でも、白夜書房は凄い会社だよね(笑)。「僕もそういう会社に入りたいな」って思ってたよ。僕もね、荒木さんのヌード撮影で、現場に手伝いに行ったことがあるんだけど、面白かった。まず、荒木さんの撮影では風呂にお湯を入れておくんだよね。

スエイ 準備。

それは何故ですか?

渡辺 入浴シーンを撮るため。

スエイ 「今から(入浴シーン)撮るぞ、ウォッ!」っていうときに、お湯がたまってないとダメなの。それと、毛を剃るのも風呂場だしね。当時は毛はダメだったから。

渡辺 毛はいけないですよね。世の中にマンコちゃんが見つかったら大変なことになる(笑)。毛はダメでも、スジはいいの?

スエイ スジもダメですよ。ただね、毛を剃るというのは、後で写真になったときに修正箇所が少なくて済むからなの。毛がなかったら、ちょっと丸入れて修正すればいいんだけど、毛があるところ辺まで丸で隠しちゃうから喜ばないでしょ、読者が。

渡辺 今は皆毛を出してるけどね。実はアレもいけないの?

スエイ ダメですよ、本当は。

 

でも、射精するとかよりも、
そこにいる人たちの方が
面白かったですよ

その頃の渡辺さんはスエイさんの雑誌にどんな原稿を書かれてたんでしょうか。

渡辺 なんか「第一チンポ汁」とか「半勃ち」とか、そういう原稿。でも、スエイさんの雑誌で感心したのはね、なんと言っても「東京ラッキーホール」での雄弁。あれは俺、感動したね。風俗の記事っていっぱいあるけどさ、スエイさんの「東京ラッキーホール」は感動した。

「東京ラッキーホール」は当時あった風俗ですよね。身長大のベニヤに描かれた女の人のイラストのアノ部分に穴が開いていて、そこにペニスを入れると向こうで見知らぬ誰かがしごいてくれる、という。

渡辺 やっぱり穴の向こうにいるのが、「もしかしたら男かもしれない」ってのがいいわけ?

スエイ そうそう。ドキドキ感がね。

渡辺 ドキドキ……噛まれるかもわかんないっていう。

渡辺さんは風俗ルポみたいなこともやってたんですか?

渡辺 一時、スエイさんから仕事もらってやってたよ。でも、射精するとかよりも、そこにいる人たちの方が面白かったですよ。さっきも言ったけど、モデル撮影で面白いのがあってね。モデルが股を開いた写真をカメラマンが撮ってんのをスタジオで見てたの。スタジオでパッパッパッと撮ってるんだけど、モデルを連れてきたマネージャーがさ、撮影中にスポーツ新聞をずっと読んでてね。で、ただ読んでるだけかと思ったら、そのマネージャーがときどき、「それ、オナニーポーズじゃないですか?」って言うんだよ。

一同 爆笑

「オナニーポーズ」にクレームを入れてる(笑)。

スエイ 新聞を読んでるフリをしながら、目だけはモデルを見てるんだよね(笑)。

渡辺 でも、カメラマンのほうもモデルに「オナニーポーズ」をさせたまま、色んな電動コケシとかを突っ込んで、そのまま撮影を続けてね(笑)。で、しばらくすると、マネージャーがまた「オナニーポーズじゃないですか?」って言うんだよ。それが面白かったね。

女の子によって、「オナニー撮影はイヤだ」「SMはイヤだ」とか決まりがあるからですか?

渡辺 そう。「それ、オナニーポーズじゃないですか?」っていちいち言うのが面白かった(笑)。そういう仕事は本当に楽しかったですよ。お金払ってもいいですね。

 

僕は元々「このままいくとガンになります」
って言われてたからね

ところで、渡辺さんの最新刊「キン・コン・ガン!」は面白いですね。凄い冷静というか。

渡辺 あぁ、そう? ありがとう。

スエイ 普通は自分が病気になってたらさ、中々こういう見え方できなくなっちゃうんじゃないかと思ったけど。客観的に見られないんじゃないか、と思ったね。

渡辺 僕は元々「このままいくとガンになります」って言われてたからね。僕に直接言うんだよ(笑)? だから、「いつかなるんだ」と思ってたし。かえって、ガンになってせいせいしたよ。

スエイ あ、そう……。

一同 爆笑

渡辺 胃潰瘍ってみんなよくなるけど、アレも実はガンらしいね。

胃潰瘍がガンなんですか?

渡辺 うん。だから、胃潰瘍になるとすぐ胃を切っちゃうみたい。今はちゃんと告知するところもあるらしいけどね、「胃潰瘍ですけど、これはガンです」って。でも、切らなくても、そんなに大きくなかったら胃の中ガチャガチャやって、最後はホッチキスで止めちゃうの。で、一ヶ月くらい断食して、点滴だけで暮らせばいいんだけど。

スエイ じゃあ、「あなた胃潰瘍です」って言われたら危ないの?

渡辺 危ないよ、何回もなってたら。

スエイ でも、胃潰瘍って瞬間的になるらしいじゃない? すぐなっちゃうんでしょう。

渡辺 なる。怒ってばっかりいると、なるしね。

 

外国に取材に行くときでも、
ずっとメモを取ったことがない

「キン・コン・ガン!」では、巻末のイラストが凄い印象的でしたが。

渡辺 入院してるときにね、水彩絵の具を持ってたからベッドで思い出して。あっでも、思い出して描いたっていうことでもないな。フランスに行って、飛行機から地方に行ったときに、見えた景色ですよ。それを描いたんだけど。


「キン・コン・ガン!」巻末のイラストより

スエイ でも、そうやって描けるのが凄いよね。僕だったら「あのときのアレを描け」って言われても描けないんだよね。記憶に残ってることだからかもしれないけどさ、そこが凄いよね。

メモもいっさいしないんですか?

渡辺 外国に取材に行くときでも、ずっとメモを取ったことがない。そんなことをしても無駄。だから、あっちの人(クライアント)は「大丈夫ですか?」って、資料を集めてくれたりするんんだけど、全然大丈夫。

スエイ 意外とさ自分の記憶が、そのときの現実とちょっと違ったりするのが面白いんだよね。

渡辺 そうそう、面白い。だからアフリカに行ってもさ、今から思えばメモしておけば良かったと思ったりもするんだけど、そこではメモをするより見て回ってるほうが面白い。観光地行ったり、ピラミッドの中とかね。面白いですよ。土人? 土人って言っちゃ悪いけど、そのエジプト人の船に乗ったりしてるほうが面白い。映画より面白いですよ。

スエイ アウトサイダー・アートってのがあるじゃないですか。頭がヘンな人が描いた絵。前に、それを見に行ったことがあるんだけど、すごい絵があって。車に乗ってて、窓から見える風景を延々と描いてる人がいるんだけど、キュレイターの人に聞いたら、全部記憶で描いてるんだって。でも、物凄いリアルなんだよ。電信柱とか建物があって、それが何枚も何枚もあるわけ。しかも、一晩で描いてるっていう。

渡辺 それはわかる。実際と記憶とは違うのかもわからないけど、そういうのは面白いよね。

 

家にいたら飽きるね、やっぱり。
毎日家でご飯食べたりするの

渡辺さんとスエイさんが、今後一緒に仕事をされる予定はないんですか?

スエイ 僕が現場にいたら一緒にやりたいけど、今はね。

渡辺 でもね、あんまり足下が悪いときに、外に出歩かないほうがいいと思ってる。

でも、「キン・コン・ガン!」に「できるだけ用事を作って外に出たい」と書いてありましたけど。

渡辺 そうだよね。家にいたら飽きるね、やっぱり。毎日家でご飯食べたりするの。子供が夏休みだったからさ。子供は山崎パンでアルバイトしてるけどね。でも、まぁ、家にいるのもう飽きた(笑)。だから、どんどん出歩きたいね。

スエイ 呑みに行ったり、集会とか「アングラの会」もあるからね(笑)。

渡辺 そうだね。


 キン・コン・ガン!
ガンの告知を受けてぼくは初期化された

渡辺和博

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